天気が悪くなる前兆に敏感な反応を示し、頭痛を起こしたり、古傷が痛んだりという人が、皆さんの周囲にもいらっしゃるでしょうか。
あなたが仮にそうであれば症状を思い浮かべて気が重くなるということになるでしょう。しかしあなたが当事者でない場合、天気で体調が変わるなんて気のせいじゃないの?と言いたくなってしまうかもしれません。
ただ一定以上の人が天気と体調の関連を感じていることは、昔から「気象病」という言葉があるほど知られているものです。
その原因はずばり自律神経、つまり交感神経と副交感神経のバランスが影響しています。
そしてこの気象病は、高山病と同じ仕組みであるともいえるのです。そしてその対策には、頭痛薬はあまり効果がなく、酸素カプセルを吸ったり、乗り物酔いの薬を飲むのが効果があると言われています!
では、なぜ天気と体調が関係するのでしょうか。
そもそも毎日なぜ天気は変わるのか、そして天気によってなぜ身体の調子が悪くなることがあるのか――その基本的なところを考えてみたいと思います。
低気圧と天気のお話
天気が悪くなると体調を崩す人は雨などの天気の見た目に影響を受けているのではなく、天気の原因である「低気圧」に影響を受けています。そこでまずは低気圧とは何なのかを見ておきます。
低気圧とは何か?
――気圧というのは文字通り「空気の圧」。
ある地点の気圧とは、その地点の真上全ての空気の重みがその地点目がけて押圧されていることを意味しています。
標高が高くなると気圧が低くなることはよく知られていますが、これは山に登った分だけ大気圏の厚みが小さくなっているということです。
では同じ地点の気圧が日によって異なるのはなぜでしょう。毎日その地点の標高が変わっているわけではないのに気圧がかわる、それは空気が絶えず動いて集合と解散を繰り返しているからです。
ある地点に空気が集まった場合その地点の気圧は上がり(高気圧)、ある地点の空気が少なくなった場合は逆に気圧が下がります(低気圧)。
地球の自転と公転の影響
この空気の集合と解散の原因となるもっとも大きなメカニズムが地球の公転と自転です。
地球が太陽の周りを1年かけて公転しながら毎日1回転することで昼と夜が生まれあるいは季節が生じていますが、この現象を一番素朴な視点で見ると、ある地点に対する太陽光の当たり方が常に変化した結果、空気の温度(気温)がダイナミックに変化していることが重要なポイントと言えます。
低気圧で天気が悪くなる理由
以下は体調の変化に関係する「低気圧」に集中して説明しますが――低気圧という状態は太陽光により空気がとりわけ温められた部分で生じます。
空気が温められるとその周囲の冷たい空気と比べて軽いため、空気が上昇して行くのです。この上昇気流によって真上から押し付けてくる空気の圧が小さい状態を「低気圧」と呼んでいます。
上昇気流で暖かい空気が上空において冷やされる時に空気中の水分が雲となり雨となる、これが「低気圧」の場所で天気が悪くなる説明ということになります。
これで低気圧が天気を悪くしているメカニズムは理解できたと思います。しかしきょうの本題は低気圧が人間の体調を悪くするメカニズムです。気象病はなぜ起こるのか、いよいよその核心に迫ります。
低気圧と体調のお話
気圧が低くなると体調が悪くなる気象病。これになる人とならない人がいるように、たとえば富士登山において高山病になる人とならない人がいます。
気象病と高山病は同じ?
高山病の発生メカニズムは「山では酸素が薄いから」という形で説明されることが多いのですが、「酸素が薄い」とはどういうことなのか。
きょうの文章の言葉で言い換えれば、空気が解散して量が少なくなっている状態、つまりは「低気圧」と完全にイコールで理解できる、これがポイントです。
高山病と気象病は同じものと考えられるのです。
低気圧を「酸欠状態」と言い換えると、身体に影響があって当然のような聞こえがします。人間の身体は酸素が少ないと感じた時より多くの酸素を得るために血流の変化が起こりこれが頭痛を発生させるわけです。
古傷の痛みも血流の変化に関係しているでしょう。
人間の持つ気圧センサー
また人間の身体は気圧自体を検知するセンサーも持っていることが分かってきています。そのセンサーは耳の一番奥「内耳」にあります。
内耳にある「気圧センサー」が低気圧に反応して「交感神経」を興奮させることにより体の各地に痛みを生んでいるようなのです。
いきなり登場した「交感神経」という言葉の意味をおさえます。「神経」とは脳と身体の各部分を繋ぐ回路のことで身体の部位を動かそうと思ってコントロールできる「体性神経」と自由にコントロールできない「自律神経」にわかれます。
このうち個人の意識からみてブラックボックスにあたる自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2種類に分けられ、この二つのバランスで体内環境が調整されているようなのです。
交感神経と副交感神経のバランス
交感神経が「アクセル」、副交感神経を「ブレーキ」とたとえることも多く、「交感神経が活発」「副交感神経が優位」というようなバランスによって人間の身体はドライブされています。
気圧センサーが低気圧を感知すると、アクセルが踏まれ交感神経が高ぶります。すると酸欠と同じように血流変化が起こり、また血管が収縮する、胃酸の分泌が増えるなどさまざまな症状が出てきます。
こうした神経の高ぶりは言ってみれば、エキサイト状態、激怒、激しい精神的ストレス、というような場合と神経の状態としては同じなのであり、実際に低気圧が近づくと胃がキリキリ痛む、何故だかイライラするなどの症状を訴える人もいます。
内耳の役割が重要
またここで、気圧センサーがある内耳に再び注目してみれば、内耳には音を感知する部分の他に、三半規管を代表とする体のバランス「平衡感覚」を見るセンサーで構成されており、この平衡感覚センサーが気圧センサーと関連しているだろうことがわかってきているようです。
これは気象病また高山病の症状として「めまい」があることにより、症例的に証明されていると言えます。
以上ここまでで「もしかして気のせいなのでは?」というような天気と体調の関係がかなり科学的に見えてきたと思います。
科学的根拠をおさえると実は「気のせい」なんていうことは世の中にはほとんどありません。きょう話していることの逆の現象もそうだと、少し頭にとめておいてください。
「晴れた日は気持ちいいなあ」というのもなんとなく気持ちいいのではなく、気圧が高くて酸素がたくさんあり副交感神経ブレーキが働いてリラックスできているから気持ちいいのです。
気象病に対策はあるのか!
見てきたように天気が体調の変化を引き起こしているのだとすれば、体調良く保つためには天気を変えるしかないのでしょうか。
そうだとしたら、気象病なんて治せないということにならないでしょうか。医学の世界では、気象病を持つ人の敏感すぎる気圧センサーに働きかける治療法に関する研究がいま進められています。
しかし医学の進歩を待つ間、私たちはてるてる坊主を下げる以外に、どのような対策があるでしょう。
自律神経のバランスを保つ
自律神経のバランスを整え副交感神経を優位に保つということが気象病対策でよく言われます。
たとえば好きな音楽を聞き、友人や家族恋人との楽しい時間を過ごす、アロマによるリラックス効果、ヨガやストレッチなどなど、それは理屈として確かに正しいのですが、ブラックボックス的な自律神経の操縦席以外の部分を、ここでは考えてみます。
インターネットで気象病(という言葉を使う人使わない人いろいろですが)当事者が実際にしている対策を検索してみると、複数人の人が「酸素を吸う」ことをしています。
酸素を吸う!?
スポーツ用品店や登山道具の店で売っている酸素缶を常時携帯している方、また近年疲労回復はたまたダイエットや若返りなどなどをうたうものとして広まってきた「酸素カプセル」を利用すると頭痛がおさまる、といった声があります。
これはまさしく高山病の急性症状をおさえる原理そのものであり、科学的根拠を感じるものです。
乗り物酔いの薬を飲む!?
また気圧センサーと平衡感覚センサーがなんらかの関連をしていることを考えれば、気象病関連の症状をおさえる薬として、「乗り物酔い」の薬をのめば良いという話があります。
日本における気象病研究の権威である中部大学医学部佐藤純教授は、実際に気象病患者に対して酔い止め薬を処方していることをインターネット各地にあるメディアインタビューにおいて語っています。
「頭痛薬が効かない」という話も私の周りでは聞くところです。もしそういう方がいらしたら、「酔い止め」を試してみるのはひとつの手でありましょう。
まとめ
雨が近いと頭が痛い。
そんな「気のせい」のようだった現象が、太陽と人間の関係による、また天気と身体の科学で語られる、たいへん大きなお話であろうとは、私も調べてみるまでまったく知りませんでした。
高山病はもちろん、クルマ酔いや激怒といったなんの関係もないような現象と仕組みが共通していたのもおどろきです。
科学を理解して利用して、気持ちよく暮らしていきたいですね!
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