五月雨はよく聞く言葉ですが、「五月雨式」という言葉はご存知ですか?
まず、五月雨とは、五月に降る雨のことではありません。では、いつ頃の季節に降る雨のことなのでしょう?また「五月雨式」とは五月雨とどんな関係があるのでしょうか?
「五月雨式」は、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、ビジネスシーンで使われることがあり、しっかり意味がわかっていないと間違って使ってしまう場合もあります。
今回は五月雨とはいつ頃の季節を指す言葉なのか、そして意外に間違えて使いやすい五月雨式のビジネスシーンでの使い方などを紹介します。
五月雨と「五月雨式」とは?
五月雨は「さみだれ」と読みます。これは字の通り、陰暦の五月、今で言う、六月の梅雨時期の雨のことを示しています。五月に降る雨のことではありませんので、間違えないようにしましょう。
五月雨の特徴
五月雨とは、普通の雨と何が違うのかというと降り方になります。普通の雨は、数分から数時間一気に降って止みます。それに対して、五月雨とは断続的に降り続け、太陽が見えない日が何日も続く場合があります。
ひどい大雨が一度に降るのではなく、途切れながら長く雨が続くといった状態です。このような梅雨時期の雨のことを五月雨と言うのです。
そしてこの五月雨は雨だけでなく「断続的にダラダラした状態」のことも指します。これを丁寧なビジネス言葉にしたのが、次に記述する「五月雨式」です。
「五月雨式」とは?
まず読み方は「さみだれしき」です。その意味は、前述したような五月雨のような人の行動を表す言葉です。つまり、「断続的に何かをする様子、ダラダラとした様子」のことを言います。
五月雨が、梅雨時の雨のことだといいましたが、その梅雨の雨の特徴である、ひどい大雨が一度に降るのではなく、途切れながら長く雨が続く様子から、一度にすませるのではなく、途切れながらダラダラと長く物事が続くことや、そのような方式という意味の「五月雨式」という言葉が生まれたのですね。
この「五月雨式」とは、男性がビジネスシーンで謝る時や納品の状態を表す時に使われる言葉です。
五月雨式の使い方
普段の生活をしている中では「五月雨式」という言葉を使うことはほとんどないと思いますが、ビジネスシーンでは意外によく使われる言葉です。
「五月雨式」のビジネスシーンでの使い方
企画書を作るたび些細なミスで何度も何度も作り直し、それを上司に確認してもらう時に使うことができます。
上司としては何度も何度も確認することに飽きているはずです。そんな時に「五月雨式ですいません!」と言う使い方です。これは「何度も何度も確認していただいてすみません」、「お手間をとらせてすみません」という意味合いで使っているのです。
仕事についての質問メールを上司に何度もしてしまった場合には「五月雨式ですみません」と送ると、「何度も何度も立て続けにメールをしてしまってすみません」という意味合いになりますので、一度でまとめて聞くことができずに手間がかかる形にしてしまってすみませんといった形で気持ちが伝わりやすくなりますね。
「五月雨式」は「五月雨」からきている言葉で、日本語特有の柔らかさのある言葉です。上司や取引先への報告や納品物が断続的になってしまう場合に、その状態を謝罪するために使う丁寧な言葉です。
五月を誤用しやすい言葉
他にも、この時期に現れる天候の特徴などから、“五月(さつき)”という言葉を使った誤りやすい言葉があります。
・梅雨時期の薄暗い雲=『五月雲(さつきぐも)』
・梅雨時期の暗い夜=『五月闇(さつきやみ)』
『五月晴れ(さつきばれ)』という言葉も、本来は梅雨の間のわずかな晴れ間を指していました。しかし最近では、新暦5月に気持ちよく晴れた日のことを意味する表現として、広辞苑などでも認められてきています。
俳句や和歌で使う五月雨
俳句や和歌の中にも、五月雨という言葉はとてもよく使われています。五月雨の場合、もちろん梅雨に降る雨を意味しますので、「梅雨の季語」として使用されます。
といっても、季語は本来、春夏秋冬で分けられていますので、新暦6~7月頃に目にすることの多い「夏の季語」というのが正解です。
「五月雨を集めて早し最上川」は松尾芭蕉の有名な俳句です。
この俳句の意味は「降り続いた五月雨(梅雨の季節の雨)を一つの所に集めたように、最上川の流れは急で、すさまじいものです」というものです。この句を読んだのは、最上川の川下りの体験をした後に詠んだ句であったそうです。
旧歴の五月の呼び名
私たちは旧暦では、五月のことを「さつき」と呼ぶと習いましたね。漢字では「皐月」と書くとも習いました。そしてもう一つ、あまり使われていませんが「早苗月(さなえづき)」という異称があることをご存知でしょうか?
早苗月から皐月へ
「早苗月(さなえづき)」は、その文字どおりに『田植えを始める月』を由来としています。そして「皐月(さつき)」は「さなえづき」が転じて「さつき」となったという説と、耕作のことを古語で「さ」と言うため「稲を植える月」として「さつき」という音がうまれ、『神にささげる』という意味を持つ漢字「皐」が当てられて「皐月」となったとも言われています。
また、狩りに行くのに良い時期であったことから「幸月(さちづき)」、橘(たちばな)の花が咲くことから「橘月(たちばなづき)」という異称もあります。
橘は着物の文様では吉祥模様(きっしょうもよう)と言い、お祝いに相応しい花です。いずれにしても、田植えを行う月であること。その稲は神様へのささげものであること。それを祝う意味を込めた言葉が使われていることです。
実際の五月晴れや五月雨の使い方
では、「五月晴れ」と「五月雨」はいつ、どのように使うのが正しいのでしょうか?
本来は旧暦の五月の言葉です。今で言うと、6月~7月にあたりますので、正しくは「梅雨(つゆ)」の頃の言葉となります。つまり、五月晴れ=梅雨晴れ、五月雨=梅雨の雨…という意味があるというクセモノです。
例えば、五月晴れという言葉の意味を調べると
広辞苑では、「(1)さみだれの晴れ間。梅雨の晴れ間。(2)5月の空の晴れわたること」
日本国語大辞典・小学館では、「(1)五月雨(さみだれ)の晴れ間。つゆばれ。(2)5月のさわやかに晴れわたった空。さつきぞら」
と、辞書にも二つの意味の記載があるのです。俳句や短歌など、季語の世界ではもっとはっきりしていて、それぞれ旧暦に準じています。ですから、季語に親しんでいる方には、五月に「五月晴れ」「五月雨」という言葉を聞くとちょっと違和感があるように思うこともあるのではないでしょうか。
まとめ
ここで、もう一度「五月雨を集めて早し最上川」という松尾芭蕉の有名な俳句を使って締めくくりたいと思います。
・五月雨は【梅雨時の降り続ける雨】のこと
・最上川は【山形県にある急流で知られる川】のこと
・季語は「五月雨」夏の季語であり、現代でいう6月にあたります。
簡単に説明すると、「五月雨を集めてきたように流れが早いなぁ、最上川は」という意味の句です。もともとは「五月雨をあつめて涼し最上川」という句であったが、のちに「早し」に変更されました。
この俳句を意識して詠まれた「五月雨や大河を前に家二軒」という蕪村の句もあります。
五月雨について、意味や季節、読み方からビジネス用語としての使い方、俳句の季語など様々な情報があります。現代では本来の意味とは違った意味でつかわれることも多くなっています。
知っているつもりでも、うっかり間違う可能性もある言葉なので、きっちり意味を理解して使って下さい。
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