かき氷のシロップは実は同じ液体という話、どこかで耳にしたことがあるようなないような。ここでするのはこの話です。
まずはかき氷というものの歴史を見てみましょう。かき氷の歴史の中で、あのカラフルなシロップはいつ登場したんでしょうか。
また、同じ液体なのだとすれば、なぜいちご味はいちご味で、メロン味はメロン味なんでしょう。そこには人間が飲食をする時に何を感じているのか、ということが関係しています。
そして最後に、かき氷のシロップと、全く同じだけれども全く違う、「おなじみのモノ」も紹介します。
かき氷の歴史とシロップの登場
暑い日本の夏を乗り切るため、衣食住の様々な要素において、昔から様々な工夫がされてきました。ここで話題にしているかき氷は、その「食」における代表的なものでしょう。電気のない昔は、「夏場の氷」というもの自体が貴重なものでした。ですから、かき氷を食べること、それは身分が高いことの証でした。
最も古いのは平安時代!
かき氷が記録に残っている最も古いものとして平安時代、清少納言の『枕草子』が挙げられます。「あてなるもの」(上品なもの)という文章の中で、氷を削って甘い植物の樹液をかけたもの、が登場しているのです。これがシロップのもっとも遠い祖先といえるものです。メープルシロップ的なものをイメージしたらよいでしょうか。
明治時代になると
明治時代になって、人工の氷が作れるようになり、かき氷は一般庶民が食べられるものになりました。しかしこの時代になっても、シロップというものはまだなく、砂糖をかけたり、あんこを乗せたり、といった食べ方がされました。ただし「みぞれ」(透明な砂糖蜜)については戦前からあり、これが現在のかき氷のシロップの直接の祖先です。
現在でもかき氷シロップの代表的ブランドと言える明治屋が、「フルーツシロップ」「コーヒーシロップ」を発売したのは昭和4年のことです。このシロップは水で割って飲むものとして流通していたようで、その流れを考えると、明治35年銀座の資生堂パーラーがソーダ水を発売して以来の大正時代カフェブームも、シロップの歴史に関係していると考えることができるでしょう。メロンソーダの緑色は、メロン味のシロップの色ですね。
冷蔵庫の登場
庶民の家庭に電気冷蔵庫が普及したのは昭和40年代になってからです。つまりかき氷が自宅で手軽に楽しめるようになったのもこの時代からと言えます。やはり代表的なメーカーといえる井村屋がシロップの製造を始めたのもこの時代です。現在の形のかき氷シロップとしての歴史は、この半世紀ほどのものである、と言えるでしょう。
シロップの正体は「果糖ぶどう糖液糖」
かき氷シロップは、清少納言の時代と同じく植物のエキスである、と言ったら大雑把過ぎるかもしれませんが本当です。
甘みを出しているの原料はあの植物
しかし、樹液を使っているといった単純なものではありません。原料である植物に化学的な操作を加えて、甘味を生み出しているのです。では、その原料となっている植物、なんだかわかりますか?
答えは「トウモロコシ」です。私はこれを知って驚きました。全然かき氷とイメージが違うからです。トウモロコシのデンプンを細かくした後、酵素を加えて精製することで、甘味が得られます。
この工業生産の技術が確立されたのも、家庭でかき氷が食べられるようになった昭和40年代のことでした。現代流のかき氷シロップの成立にはこのように、家庭用冷蔵庫の普及と、トウモロコシから甘味を生み出す技術の成立と、二つの工業的発展が関係しています。
果糖ブトウ糖液糖
このトウモロコシから得られる甘味が、シロップボトルの成分表示にある「果糖ぶどう糖液糖」というものです。そしてやはり、 いちご味もメロン味もレモン味もブルーハワイも、どんな味でも「果糖ぶどう糖液糖」とボトルには書いてあるのです。
つまり液体としてはどうもどの味も同じと考えて間違いないようです。
どれもみんなトウモロコシなのです。ですが、確かに味は違いますよね? もちろんトウモロコシの味はしませんが、だからと言って、赤い液がメロン味であることもないでしょう。
風味が味を決めている
人間が味を感じるのは、口の中の舌、そこにある味蕾 (みらい)というセンサーです。口の中にやってきた飲食物は、噛み砕かれて唾液と混ざり、細かな化学物質になります。その化学物質を味蕾が捉えると、脳に味の電気信号を送ります。
舌にはこのセンサーが10,000個も存在しています。
しかし、それだけが味を決定するのではありません。「風味」という言葉がありますが、人間は味を、香りと混然一体となった「風味」としてしか、認識できないのなのです。
つまりイチゴ味のシロップにはいちごの香りがついている。メロン味にはメロンの香り、レモン味にはレモンの香り、それぞれ香料が違うからおのずと味が異なってくるというわけです。
どんなに同じ「味」だとしても、脳は「風味」しか検知できないため、香りが違えば味が違ってしまいます。では鼻をつまめば、全てのシロップはみんな同じ味になるでしょうか?
人間が食べ物の香りを感じる仕組みもだいぶ科学的に解明されています。それによれば食べ物の香りは「オルソネーザル」と「レトロネーザル」の2種類に分けられます。
「オルソネーザル」は 鼻から嗅ぐ香り
「レトロネーザル」は飲み込んだ後の喉から鼻に向かって上がってくる香り
この「レトロネーザル」が主に「風味」を構成しています。くんくんと香りを嗅ごうとしなくとも、自然と香りは味と混ざってしまうものなのです。
色も重要なはずだけど
かき氷のシロップでは、着色料による色の区分も重要でしょう。イチゴ味は赤、メロン味は緑、レモン味は黄色というイメージにより、色が味を誘導している、という側面があります。
確かにあの色だからかき氷、 しかしそれはあくまでイメージに過ぎません。 単純に色をつけているだけですから、「赤い色のレモン味のシロップ」を作ることは可能でしょう。
話を「果糖ぶどう糖液糖」に戻せば、この甘味料はほとんどの清涼飲料水にも使われているものです。近年、様々な種類の「フレーバーウォーター」、透明なミネラルウォーターに味がついているもの、が売られていますが、このフレーバーウォーターの甘味も「果糖ぶどう糖液糖」です。
そして、みかんの香り、梨の香り、レモンの香り、紅茶の香り、ヨーグルトの香り、と様々な香りをつけているのは、かき氷のシロップと全く同じ原理です。
このことからも、色はあくまでイメージに過ぎないということがわかります。そして味における香りの重要性も理解できるでしょう。
まとめ
かき氷のシロップという視点から、平安時代から現代までの歴史を見てきました。
人間が飲食物を通じて「美味しさ」を感じることについて、様々な角度から見ることができました。シロップが全て「果糖ぶどう糖液糖」だからといって、全部同じだ「というわけではない」ということを強調しておきたいと思います。
この先、科学の力で、食べ物や飲み物の姿は、どんどん変わっていくことでしょう。 姿が違い香りが違えば、異なる「美味しさ」が生まれるのです。
これからも美味しいものを食べていきましょう!
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